
これほどおもしろい小説読んだことがない。
凄いなーと思った本に出会ったことは何度かあるが、この物語は遥かその上をいく。名作と云われる純文学はさておき、歴代の芥川賞作家、直木賞作家等のどの書き手も、この作風を凌ぐ作品は生み出すことはまず出来ないであろう。ジャンルを問わずたとえば昨近世界的に名を馳せた村上春樹の代表作といわれる「ノルウェーの森」を読めばわかるが、ストーリーの組み立てはなるほど幻想的でうまいと感じるところもあるが、文章にキラリと光るものが観れないのである。しかしこちらの小説は筆力がまるで違う。
あらすじであるが、時は徳川家斉公の時代、瀬戸内海に面した四国丸海の町に一人の少女が余儀なく江戸から移り住むことになる。少女の名は「ほう」親戚すじでは阿呆の呆だといって彼女を馬鹿にしクズ同然にこきつかう。物覚えの悪いところもあるのだろうが、誠に清く、優しい心の持ち主で、この丸海の町の親切な医者の家族に引き取られてからは、心の安らぎを得たのだろう一生懸命奉公に励む。また「宇佐」という名前の少女が陰に陽にほうを助ける。数か月が過ぎたある日、この丸海の町に元幕府の重臣、加賀之守という人物が大罪を犯しこの地に流刑、幽閉されるという話が伝わる。町の人々はこの招かれざる客を鬼、雷神の如く恐れおののき、たくさんの奇怪な事件が頻発し物語はこの3人を軸に展開していく。
私が感心したのは正義と悪、人物の動き、情感がまことに豊にしかも平易な文で綴られ非常に読みやすかったことである。歴史時代小説の雄といえば山本周五郎l、ちかくでは藤沢周平が文句なくその筆頭にあがるだろう。もちろんこれらの作家も大好きなのであるが、また違ったタッチゆえにこの作品の虜になるのである。物語の後半は哀切の結末、涙、涙の連続であった。そして巻末に作者は綴る「宇佐が仰ぐ青い空、ほうが見渡す青い海を描くとき私の心はいつも丸亀の景色が浮かんでおりました」と。この本を読み終える時作者はいかに思い入れ深くこの本を書き綴ったことがわかるのである。是非一読されたい。
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